Ichiro as a super man!

 イチローが神がかって来た。テレ朝の「Get Sports」とか言う番組でインタビューに応えたイチローは、今シーズンを振り返って、こう分析する。
 今年の4月は「打率が高すぎた」。3割5分6厘。4割を本気で狙う男にしては、この発言は意外だ。しかしイチローにとって、キャンプと4月は「準備期間」なのだという。そのため今年は、あれだけの高打率をマークしながらも、「何か間違っている」と悩んでいたそうだ。端から見た「好調なスタート」は、彼からしてみれば違和感だらけだったということだろう。
 5月に入ると、イチローにしては「不調」と言わざるを得ない成績を出すようになる。やがて、低打率の原因の一つが、バットを動かし始めるタイミングが遅いことだと気付いた彼は、バッティングフォームの改造に着手した。(バッターは普通、シーズン中にはフォームの改造をしないそうだ。だがイチローは変化し続ける。こういうところ、本当に凄い。)新しく出来上がったフォームは、ほんの僅か――数百秒分の一位だろうか――早くバットを引き始める。そしてこの一瞬の差が、思わぬ「副産物」を呼び込んだ。ホームランである。たしかに、打率が低迷する割には、ホームランは確実に増えている。このフォームの改造で、以前は狙わないと打てなかったホームランが、「狙わなくても(客席に)入るようになった」そうだ。またバッティングコーチによると、練習のときイチローは、誰よりも多くホームランを出しているそうで、「年25本はいけると思う」。
 だが、フォームは「間違い」では無かった。違和感の素は、「球を見ている自分」だったと言う。球を見なきゃ打てないだろうが、と思うのだが、球を見てはいけないとイチローは語る。「球は眼で見るんじゃない、身体で見るものなんです」。研ぎ澄まされた身体の感覚が言わせる、この言葉。
 そして、恐ろしいまでの繊細さ。イチローの人間を超えた感応力は、目の前にある二つのボールの重さの差をも察知するという*1。精密機械顔負けの感度。
 今シーズンの低迷を分析するイチローを見ていると、間違えに不調、そしてプレッシャーさえも、進化すべく、まるで彼自身が呼び込んでいるかのように感じられる。あらゆるマイナス要因は、彼の忍耐強い努力にかかると、全てが跳躍への栄養素となるようだ。この男の強さは、途方も無い。
 今年の成績は、ホームラン以外は、今までで一番良くないものになるかもしれない。だが、成績が振るわなくとも、一打席一打席、彼が無駄に過ごしている訳では無いだろう。自分の身体と向き会い詳細に観察し、様々な微調整を行っているはずだ。今年も200安打は達成して欲しいが、私のイチローに対する期待の鉾先は、早くも来シーズンに向かっている。